「野良カッチンを知らないなんて、人生半分損してますよ。」
Yショップのお母さん、あーちゃんが言うんだが、野良カッチンて何だか知らない。
ひと冬に、数回しかそのチャンスはないらしい。
前の日に晴れて、雪が溶けて、その翌朝うんと冷えて、雪が凍ったといったような条件が満たされたときに、
雪の上をどこまでもどこまでも歩いていけることをいうらしい。
私の人生にも、カッチンを体験できる時が来るのだろうか。
今まで今人生損をしていると思ったことはないが、もしかして、損しているのかもしれない。
そして、時はきた。
「今朝は最高のカッチンができてますよ。」
あーちゃんから今朝、電話があった。すでに外に出たときに、ひょっとしてこれは行けるのではないかと思っていた。
今まで何度かそんな朝があって、まだ何の跡もない雪の上に乗るのだが、一歩でズボッと膝まで埋まり、長靴に雪が入った。
しかし今朝は様子が違う。埋もれる気がしない。
歩いた。どこまでも。湖まで、田んぼを越えて、線路を越えて、橋を越えて、川を越えて。
いつも、ここは誰の田んぼ、とか、田んぼの上は歩かずにあぜ道を、とか、川を向こうまで行ってとか、あの木をまわってとか、そうやって歩いているのに、そんな境界はどこにもなかった。ただただ広がる真っ白を自由に歩く。誰のものでもない、ここまでという決まりもない、地球の上を歩いている。
真っ白で、何の境もなかった。
生と死の境もない。だから雪は厳しく、こんなに美しいんだな。
これがカッチンかあ。こんなことが一年という生活サイクルの中に当たり前にあるって、なんていい生活してるんだ!
確かにカッチン知らずは人生半分損しているといえよう。
ゆっくりと、たくさんの音を聴いた。冷たい空気も感じた。光が眩しい。白が眩しい。
SPANNKOSMO『私の場所』終わったんだなって思う。
どうもありがとう。