ピアノを弾いては窓から見える畑に想いを馳せ、土をいじりにいき、一段落したらまたピアノを弾いて、疲れたら泳ぎにいって、夕暮れに田んぼを見回って。。。

誰が知るとも無かろうがどうにも充実し、豊かな「間」のある毎日を過ごすある日、一本の電話を受ける。

「今年も熊坂出が監督で『人狼ゲーム』の2を撮ることになったので、スパン子さんに音楽をお願いしたい。」

二つ返事でOKした。

またピアノが私の中から生まれる。

寝ても覚めてもピアノな今、この上なく嬉しく魅力的な話でしかない。
相変わらずスケジュールはタイトだが、曲が出来る瞬間というのは時空を超えるものだ。録音の時間さえうまく録れれば良い。夏休みに入るのでバイトやレッスンもばりばり入れているが夜を使えばなんとか間に合うだろう。

熊坂組は撮影の直前で、映像がまとまったら見てもらい出くんと打ち合わせて作ってもらいたいと言われたが、私はとにかく早く作り出したくて、とりあえず台本だけ送ってもらうことにした。
だけれどもう、台本が届く前に私の中から出てくるものがあって、いてもたってもいられず早速作りはじめた。

前回の人狼ゲームではエンディングの曲を一曲つくった。
本当にしんどい映画だったので、しんどさの中からこのやろーと走って叫ぶ気持ちで作ったのを覚えている。
そのことはブログにも書いた。

https://folkevise.net/spannko/uni-no-hari/archives/2580

製作が終了するまで一ヶ月、ずっと家にこもってストイックな時間を過ごした。
こもるエネルギーが必要な気がしたのだ。そうやって自分の中に膨らんでいくものを爆発させるような、そういうものをぶつけねばならなかった。


だけど、今回そういうんではないなと漠然と思った。今私が畑を見ながらピアノ弾いてるみたいに、爽快に行きたいということを強く思った。

人間力

そんな言葉が浮かんだ。
人が生まれたと一説にいわれている広大なあの大地が思い起こされた。
もっともっと人間が大地と繋がっていて、地球のサイクルの中で、
その中のひとかけらとして、生きる力。本能。その図太さ。
ミトコンドリアDNAの話が本当ならば、私のどこかにもその記憶は当然ある筈だ。
そこから私は新しい曲へスイッチオンした。

曲のテーマが出たところで台本が届く。読み終わって思ったこと、「このままいこう。」ピントがあっていると感じる。その後出くんとふたことみこと、メールでやりとりして、曲はできあがった。弾く度に新しい気持ちで弾けるような私には珍しい即興部分のある曲になった。
人間力 パワーのある曲にしたかったのだが、弾く度にパワーを使い果たすという意味のパワーではなく、毎回その根源力みたいなものを引き出すものにしたいと思ったのだ。

人狼1のとき5拍子だった拍子は、7拍子になった。

そのままもう一曲
静かな曲を書く。子守唄のような、レクイエムのような。

そしてもう一曲。人狼1のとき書いたが使われなかった短い曲の断片があった。とてもいいモチーフで、映像が動いた小曲だったので、是非これを膨らましてみようと思った。人狼1からの繋がりも欲しかった。この曲は意外にも明るく伸びやかな曲になり、畑を見ながらピアノ弾いてる最近の私そのものみたいな曲になった。刈っても刈っても生えてくる、土に還ったと思いきや土からどんどん生まれてくる。命に唯一インプットされた「生きる」方向。そんな曲だ。いちばんのお気に入りだ。
題名はfantastic-impronptu。1作目の呼んでるのモチーフもでてきて、対になる曲となった。

この3曲を出くんに送る。それをラフで組み込んだ映像が送られて来た。

それが本当にとてもよく、何度となく泣いた。よくもこんな話を、感動的に出来たものだ。出くんまたしてもすごい。何度も見たくなるシーンすらある。旦那や子どもとセリフを真似て遊んでしまったりするくらいだ。前作ではたった一度見て、もうそれ以上は見ずにひたすら余韻で曲を書いたものだったが。そのしんどさやストイックな部分ではなく、もっと生きていく力の方へ焦点を当てることに移行したいという気持ちは、特に監督と言葉を交わしたわけでもない私にもすでに起きていたわけだ。前作のエンディングを担当してから今回また曲を作るに至るまでまで過ごしてきた流れのまま、私の中に自然にぽっと浮かんだのが「爽快にいきたい 人間力」の一言だった。その辺がリンクする辺りが、すでにこの作品の1から2へ流れというだけでなく、もっともっと大きな、何か生きとし生けるものの流れの中の何かの上にあるすごい作品なんじゃあないかとすら思う。

それにしてもこんな映画の撮影、すんごい大変だっただろうなあと思うけど、まさに死ぬ気でやったんじゃないかという、若い役者たちの演技がどれもいい。脚本、演出、監督、スタッフ、現場の在り方、どれも素晴らしかったのではないかと想像する。
出くんというのは仕上がって落ち着きを見せたものにまるで興味が無い。
まだ人がこれはこういうものだと理解する前の、何でもないそれそのものであるときのものをとても大事にする。それが故に私はいつも見せかけ倒しでない私そのものを問われ、引き出される。思えば私のピアノ曲は殆どと言っていい、熊坂出に引き出されたものだ。だれもが本気でそれぞれの今まで生きて来た全部でもってぶつかっていくような演技を引き出されるような体験をしたのではなかろうかと思う。「こんな感じさ、あるじゃん、ほらなんか、例えばさ… やってみて。」みたいな感じなんだけどね。監督の意図は探せない。いつも自分の中の答えを見つけなくてはできない。それがこういったそれぞれの発揮したものが合わさった、生きた形の作品となるんだろうな。すげえや。

その後出くんとやりとりを繰返しながら、この「人間力」の曲を中心に、数カ所の音楽を録っていった。そしてこれは一番のお気に入りだが使う場所ないかなあと思っていたfantastic-impronptuがラストで流れることになる。いい力を発揮している。

名作だと思います。是非、劇場に見に行ってください。
上映館もどんどん増えてます。8月30日から上映開始です。
http://jinro-game.net/