おおかたの入稿作業が完了してホッとしている。いよいよ3rd albumまであと1週間!

 

 

この仕事机、山村倫のものである。

実に整然としていて、まっさらな中からこれという点を見つけ出し、生み出している場だなと、いつ見ても清々しい。

 

サイトの絵にまずみんなうあああっとなったと思うのだが、この絵こそ、山村倫の生み出した今回のジャケットの絵である。ばっと目に飛び込んでくる、目が離せない、じっと見ていて気持ち良い。side-aとside-bのアルバムは、聴いて貰えばわかるのだが、色合いが違う。だけれどどちらも私のアルバム。太陽と月という風に私は敢えてベタに言葉にしてみたが、それぞれのアルバムの色合い、対比、共通性、まったく素晴らしく表してくれている。倫には毎回脱帽である。CDジャケットが届き始めているが、現物は更にいいぞ!紙に乗る感じとかも考えているんだろうなあ、この人はと思う。何はともあれ、みなさんの元に届くのはもうすぐ。楽しみにしていてほしい。

 

1st album『spannkosmo』のアートワークの時もそうであったが、まずは倫との会話から始まる。日常の他愛もない話も交えながら、アルバムの話を深めていくにつれて、私の中でもアルバムに対するイメージがどんどんはっきりとしてくる。そうすると倫のイメージがまた思いもよらぬ方向へ膨らんでいく。そのやり取りから湧いたものを、倫は紙にザザザっと描いていく。何枚もの紙に描かれた無数のメモというかスケッチというか落書きというか、その中から、これかな、という何かが現れる。1stの時で覚えているのは、紙にたくさん描かれた絵の隅っこにある殴り書きのような小さな女性を指して、これを立体にすると言ったことだ。想像もつかなかったのだが、そこから木でできたたくさんの女体が生み出され、水に浮かべて写真を撮った。これが1枚目のジャケットのアートワークとなった。

 

絵が完成すると、それを私がトリミングして、文字を入れてジャケットとして完成させていく。切り取ってみたり、拡大してみたり、あれこれやってみるのだが、絵が素晴らしいので何をやっても格好良い。そうやって自分の中のアルバムのイメージと擦り合わせながらできたものをまた倫に見せると、少しの文字の位置、色の彩度などまたやりとりが始まって、本当にピタッと来るところを見つけていく。音もそうだが、なんとなく曖昧になっているところと、ピタッと来ているところの違いは微々たるものだが、ハマった時の全体の見え方は明らかに活力が違う。こうやって仕事してきているのだなと、1stの時に大変勉強になったが、今回も全くぶれることなく、なおかつあの頃からの人生経験が加わって、包容力が増していた。

 

3rdの絵については、このアルバムの制作開始時から倫に頼むと決めていたので、5年前くらいからずっとやり取りをしてきた。実は2枚組にすることになったのは、最後の一年くらいの中でだったと思う。当初は1枚の作品にするつもりだったが、漠然と作り上げたい曲をどんどん録っていっていたので、最終的にこのままだと大きなバケツにいろんな色を投げ込んだような格好になりそうな気がしてきた。2枚にすることでもっとわかりやすいコンセプトが見えてくるかもしれないと思って分けてみたところ、「うた」と「ピアノ」が浮上した。そんな流れも折節で倫と共有した。彼女はふむふむと聞いていた。そのうち、いざ、音が揃うと倫はイメージを具体的に話し始め、どのくらいの期間でだったか忘れてしまったが、おそらく1週間か2週間か、本当に一気に描き上げた。うたとピアノ、太陽と月、色々キーワードを述べたが遂にピアノの絵はひとつも出てこなかった。空に鳥がいて、女が雲をつかんでいて、そんな話をしていたが、女は空を纏ってそこに鳥が飛び、雲はいとになって女たちに紡がれている。かっこいい、そう来たか!!そういえば、いつだったかやり取りの最中にナマケモノの話になったのを思い出す。私は昔ナマケモノに似ていると言われたことがあると言ったら、ナマケモノはズゴイんだぜ、と言ってナマケモノのドキュメント映像を送ってくれた。ナマケモノは余程のことがない限り一本の木で一生を終えるそうだ。1週間に一回、排泄のために木から降りる。地上で生きるための姿をしていないので、それは死ぬか生きるかの行為だ。そのためにゆっくり生きる。排泄が1週間に一回で済むようにゆっくり消化する。そんなナマケモノも恋をする。彼女に会いに違う木に移る。そんなナマケモノの生態に迫った映像だった。ナマケモノの顔が前髪をまっすぐ切ったどこかのおっさんに似ていて、なんだか見ていて切なささえ覚えた。そんなやり取り、曲から受けたイメージ全てを包括した中から、倫のセンスで取り出したのがこの絵だ。いやあ、ほんとに倫さん、すごいっす!サイトでも全体のイメージ画像が見れるので、是非ゆっくり見てもらいたい。

 

さて、倫と知り合ったのはかれこれ15年くらい前だろうか。倫はは高校卒業後、日本の美術予備校に2年通い、人形劇の舞台美術を学ぶと言って単身でブルガリアに渡った。ブルガリア国立演劇・映画アカデミーNATFIZで6年間勉強し、そのままその地でアーティストとして活動している。学校を卒業した頃なのか、たまたま日本に帰ってきた時に、友人の紹介で倫と出会い、ウマがあってよく遊んだ。今は京都が拠点であるgorey recordsは、その頃一番初めの場所である生田にあった。一緒にバンドを組んでいたバイオリニスタのHONZIがまだ生きていた。生田に行くと、HONZIとidehofがインドで買ってきたスパイスでよくカレーを作ってくれた。それでたまにたくさん人を呼んでカレーパーティーを主催する。あるとき倫も誘った。倫は酔っ払って、別れた彼氏の話ばかりして、よく泣いた。全く奔放だったが、芯のところに強い何かがあって、散らばっていかない。面白い人だなと思った。それ以来、時折連絡を取ってはその仕事っぷりがお見事なことに、刺激を受けてきた。仕事もお見事なら当然生き様もお見事。恋に結婚、子育て、そしてまた恋、といつも話が尽きない。熊坂のソロ大福ブルガリア公演、京都で開催されたチビチボリでの共演はとてもいいものになったし、イガキと熊坂と3人でやったブルガリアでのSPANNKOSMOのときは随分世話になった。

 

とにかく色々書きたいことがいっぱいな人なのだが、今回のblogではまず倫の舞台作品を紹介しようと思う。本当に格好いい。人形劇って!?って思ってしまうし、このようなアートシーンの中で、バリバリと1人やり抜いていっている倫に、負けちゃおれんと何度も尻を叩かれるのだった。

 

舞台作品については倫が文章を書いてくれている。

山村倫をお楽しみください!

 

 

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● 2011年 「キング・シュシュミガ」

 

大きな舞台作品としては初めて手掛けた美術。人形は50体。造形師のオジサンと3カ月かけて二人で完成させた。11名の役者のうち人形劇出身はほんの数名で、稽古はじまりは「人形を触るのが怖い」という舞台役者もいた。共産主義政権下のブルガリアで執筆された脚本は、政権最高指導者を揶揄した皮肉な内容の為、当時は読むことも芝居にすることも禁じられ、30年の時を経て舞台化された。四年に一度の人形劇世界大会で「ベストデザイン賞」、国内でも数々の美術賞をもらった作品。

 

 

 

photo by Stoyan Navushtanov

 

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● 2013年 「あらし」原作シェイクスピア

 

演出家と大いに揉めた作品。芝居の制作は、演出家と美術家が2本柱となりアイデアを固めるのが常。演目を中々決められない演出家に数カ月振り回されたあげく、最終的に「あらし」に落ち着いたがその時にはデザインの締切りまで残り1週間。アパートの1室に毎日閉じ込められ、演出家がわめく横でデザインを仕上げた。そういうプロセスを経た作品は良いものにはならないはずが、ブルガリア最高峰の演劇賞を授与。舞台の裏で起こっている事は、表にはでないものだと学んだ。それでいいかどうかはわからないけど。

photo by Ivan Grigorov

 

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● 2014年「収集する女」

 

女優のひとり芝居。ブルガリアの青年作家による詩のように綴られた「ひきこもり」をテーマにした戯曲。身の回りのすべて、思い出の品々、両親の幻像までもを自室に収集し、外の世界に怯えながら生きるひとりの女。女の部屋は、家具や収集品を壁に埋め込み、女がその人生に溺れて暮らす様を舞台セットで表現した。ひとり芝居では、手数が極端に少ない為、場面転換などに磁石を多用して役者の物理的負担を減らすと同時に、工夫を凝らした美術要素を盛り込んだ。2014年度ブルガリア国立演劇賞「舞台美術賞」のベスト3に選出された。

 

 

photo by Pavel Chervenkov

 

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● 2015年「ジャンヌ・ダルク」

 

photo by Rosina Pencheva

 

山村倫がこだわる美術プランを子供のように喜ぶ男性演出家との初コラボ。演出家自身が彫刻家であり画家のため、話が早い。美術家が演出を考慮するのは当然だが、美術に理解を示す演出家は数少ない。ブルガリア地方都市での劇場制作は、古い民家での合宿の日々を重ねた。100体の衣装デザインはすべて立体模型を作ってパターンを想像したり、一枚一枚加工した紙を縫い合わせて巨大な舞台セットをパッチワークした。ある日曜日、針子のおばちゃんと狭い彼女の工房にこもって紙の海に埋もれながら6時間、縫いつづけた。完成した紙の塊を外に運び全体像をみた時の感動は忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

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● 2021年 「ボムベト」

 

5年間ほど舞台の仕事から遠ざかっていた。復帰作。第二次世界大戦後に共産主義独裁国家となり混乱するブルガリアの民衆や翻弄されゆく最高指導者たちの皮肉を「帽子」をもって語る風刺芝居。幕末から明治への変革期に「ちょん髷は捨てて良し」と唱える断髪令に大いに戸惑ったであろう日本の人々を思い起こさせる話だ。2020年に始動したコロナ渦での制作は10カ月を要した。自宅のあるソフィアから片道2時間のバス移動を毎週重ね、劇場の一室に寝泊まり、夜は劇場のアトリエでひとり手を動かし、感染と常に隣り合わせの現場で、久々に痩せた。

 

 

 

photo by Martin Atanasov

 

 

 

 

photo by Rosina Pencheva

 

 

 

 

 

 

 

photo by Vanesa Popova

 

 

超かっこいい!!そして写真もめちゃいい。写真をご提供いただいたVanesa Popovaさん、Rosina Penchevaさん、Martin Atanasovさん、Pavel Chervenkovさん、Ivan Grigorovさん、Stoyan Navushtanovさん、どうもありがとうございます!

 

次回は倫との対話形式で、山村倫の仕事机 紹介していこうと思います。お楽しみに〜〜。